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理事通信

第20回「リハビリテーションセンターでの先進的な取り組み!」
 2018年6月29日 掲載

専務理事 橋爪 智子

 吉備高原医療リハビリテーションセンターでの介助犬普及の取り組みを紹介させていただきます。

 岡山県にある吉備高原医療リハビリテーションセンターでは、「介助犬普及推進室(わんこの手)」にて障害当事者の方への介助犬普及活動を行っていらっしゃいます。
 受け入れ社会への皆さんへの普及活動ももちろん大切ですが、障害当事者の方への情報提供もとても重要です。
 まずは介助犬ってどんなお仕事をする犬なの?という基本的なことから、自分の身体状況や生活環境などが、介助犬と暮らすことに適しているの?というようなことまで相談にのってくれるのが、介助犬普及推進室の皆さんです。


 さて、そんな介助犬普及推進室の看護師さんから、この度とってもすてきなパンフレットをご紹介いただきました!
 介助犬を希望する方向けのパンフレットです。そして、さすがリハビリテーションセンターの看護師さん、握力がない方や指を思うように動かせない方のために、パンフレットはリングとインデックスを利用し、ページがめくりやすいように工夫されています!

 表紙もさわやかで、とってもすてきです!

 「手をグーにしてめくってみてください」ということだったので、やってみました!
 インデックスがあるので、指先を使わなくてもめくることができます。



 介助犬を希望する場合の手続きの流れはもちろん、実際に介助犬と生活している現役のユーザーさんへのインタビューもたっぷり!当会副理事長の木村佳友も寄稿しています。

 興味のある方はぜひ、吉備高原医療リハビリテーションセンターの「介助犬普及推進室(わんこの手)」のページにアクセスしてみてください。「介助犬希望者向けのパンフレット」のPDFファイルもダウンロードできます。
 定期的にニュース記事もアップされており、とても勉強になります。

 リハビリテーションセンターのこうした取り組みが全国に広がるよう、私たちも引き続き応援していきます!!

参考情報:吉備高原医療リハビリテーションセンター 介助犬普及推進室(わんこの手)

(第20回・理事通信)



第19回「アニマル・リテラシー総研」設立!
 2018年3月20日 掲載

当会副理事長 山﨑 恵子 (一般社団法人 アニマル・リテラシー総研 代表)

「アニマル・リテラシー™」とは?

 動物問題というと、社会一般はまずペット、特に犬や猫のことを思い浮かべます。
 動物の福祉を守ろうとしている団体の多くは行政による犬猫の「処分問題」に真っ先に目を向けます。
 しかし、我々人間社会は様々なその他の動物たちによって支えられているのです。その数は、ペットたちとは比べものにならぬほど膨大なものです。

 動物が好きか嫌いかという嗜好論は、これらの動物たちに関しては当てはめることもできません。我々人間は好むと好まざると食事、日用必需品の安全性等々、あらゆるところでその陰にいる動物にお世話になっているということです。
 アニマル・リテラシーとは、すなわち動物一般教養のことであり地球上で我ら人間と時空を共有している動物たちの実態を知ることです。
 人間社会の裏方を務めている動物たち、同じ環境を分かち合わねばならぬ動物たち、人に娯楽や癒しを与える動物たち、彼らが今どのような境遇にいるかを知ることは人類の義務であると考えます。これは、愛護活動とは異なるものです。
 正確な情報を入手し、それをもとに自らの動物観を人間は築いていかなければなりません。その動物観がどのような方向に向くかはそれぞれ個人の問題ですが、間違った情報や、正確さに欠けるデータなどをもとに形成された考え方は無意味なものです。
 特に、動物業界は様々な「個人的見解」に振り回されることが多い分野です。アニマル・リテラシーとは正しい知識を持つことです。
 皆様も、ぜひあらゆる角度からの様々な情報に触れ、アニマル・リテラシーを身に付けてください。

「アニマル・リテラシー総研」とは

 アニマル・リテラシー総研(Animal Literacy Research Institute, ALRI)とは、人間社会とかかわりのある動物たちに関する情報を普及させるために設立された民間団体です。

 動物関連の情報は、しばしば不正確な形で社会に浸透してしまいます。アニマルセラピーなどが良い例です。
 幅広く使用されているこの言葉は、おそらく動物介在療法と動物介在活動という国際的にも認識されている専門用語のことを指しているのでしょうが、曖昧で正確さにかける言葉です。
 また動物業界に関係する資格の一覧を見ると、驚くほど多種多様なものが列挙されています。
 しかし、どの程度のものが真の専門的知識に基づいて展開されているのであるかは定かではありません。
 アニマル・リテラシー総研は、国際的に発信されている確かな情報を日本語で提供することを通し、国内の知識基盤をより健全な方向に向けることを目的として設立されました。人間社会の動物とのかかわりに関して「言ったもの勝ち」という現在の我が国の情報の傾向を何とか軌道修正することを目指しています。
 また動物関連の情報で遅れを取っている我が国の状況を改善したいという思いが総研の立ち上げの大きな原動力ともなりました。資料、時事情報等々を一般の方々が入手できるような形で提供していく所存であります。

参照) アニマル・リテラシー総研ウェブサイトはこちら ⇒ http://www.alri.jp/

(第19回・理事通信)



第18回「犬と人の関係:ラブラドール・レトリバー」
 2017年12月19日 掲載

当会理事長 佐鹿 博信 (横浜市立大学医学部 リハビリテーション科 客員教授)

 2017年11月27日の朝日新聞夕刊(総合2面)に、「8000年以上、仲良いワン 飼い犬の壁画、最古か サウジの砂漠」という記事が掲載されていた。岩肌に、狩りの手助けをする犬の絵が狩人と一緒に刻まれ描かれていた。ガゼルやアイベックスなどの動物を追い立てる犬の群れやライオンに立ち向かう犬は、現在の「カナーン・ドッグ」に似た特徴を持ち、少なくとも349匹も描かれていた。犬は「最古の家畜」といわれ、古代から人と暮らしていた事がわかっている(この壁画の英文学術論文は、「Science Direct」で読むことができる)。

 この記事に刺激されて、私は、人と犬の関わりの歴史や補助犬(ラブラドール・レトリバー)生い立ちと特徴を調べた。

  • イヌ
     イヌは、ネコ目(食肉目)-イヌ科-イヌ属(属名;Canis)に分類される。広義の「イヌ」は、イヌ科に属する動物(イエイヌ、オオカミ、コヨーテ、ジャッカル、キツネ、タヌキなど)の総称である。亜種であるイエイヌの学名はCanis lupus familiarisであり、英語名はDogs またはDomestic dogである。イヌ属の血液型は8種類、染色体は78本(常染色体38対、性染色体1対)であり、交配可能である。
     狭義の「イヌ」はイエイヌ(以下、犬と記載)を指し、これが野生化したものを野犬(ヤケン)と呼ぶ。犬は人間が作りだした動物であり、最も古くに家畜化したと考えられる。
     現在、国際畜犬連盟(Fédération Cynologique Internationale: FCI)は331種を公認しているが、非公認犬種を含めると約700から800の犬種がいる。世界全体では4億匹(10億匹ともいわれている)の犬がいると見積もられている。

    ※備考:日本はFCI加盟国のひとつであり、公益法人ジャパンケネルクラブ(JKC)の正式加盟は1979年(昭和54年)である。JKCは、FCIのアジア地区代表メンバーとなっており、すなわち日本がアジア地区における代表国となっている。

  • ヒトの歴史
     ヒト属の最初の種(ホモ・ハビリス)は少なくとも200万年前に東アフリカで進化した。そして比較的短い時間でアフリカ各地に生息するようになった。ホモ・エレクトゥス(原人)は180万年以上前に進化し、150万年前にはユーラシア大陸各地に広がった(第1回目の出アフリカ)。ホモ・サピエンス(新人)がホモ・エレクトゥスの子孫である。現在のホモ・サピエンスは14万年前から20万年前に共通の祖先を持つことがわかり、ホモ・サピエンスは7万前から5万年前にアフリカから外へ移住し始め(第2回目の出アフリカ)、ヨーロッパとアジアに定着し、約15,000年前に北アメリカに達し、約12,000前には南アメリカの南端に達し、既存のヒト属と置き換わった。
  • イヌの歴史
     約6,500万年前に発生した 「ミアキス」 という動物(ネコぐらいの大きさで樹上生活)が、多くの肉食哺乳類の共通の先祖である、一部は草原に進出し、約2,600万年前にイヌ属の先祖の「トマークタス」 という動物が発生した。(森林に残ったミアキスは、その後さらに森林に適応して進化しネコ属の動物達の先祖となった)。
  • イヌとヒトの関わり
     イヌ科の最初の出現地域は北アメリカであり、直接の先祖は、約50万年前に現れたオオカミの原型とするのが最も一般的で有力な説である。オオカミはベーリング海峡を渡り、約15,000年前にはアジアに生息していた(タイリクオオカミ)。オオカミと犬が枝分かれしたのは数万年前である。15,000年以上前に東アジアとヨーロッパで、8,000年前に中央アジアで、ヒトはオオカミを家畜化して、オオカミから犬が別々の地域で分化したと推定されている。
     犬の存在はヒトが世界に広がっていく過程で、大きな力となった。一方、ヒトの移動に伴って犬は世界中に分布を広げた。
  • ラブラドール・レトリバー
     大型犬であり、元来は狩猟犬の一種であるが、現在は家庭犬や身体障害者補助犬や使役犬として、カナダ、イギリス、アメリカなどで登録頭数第1位となっている。

    祖先犬:ラブラドール・レトリバーの血統のもととなった犬種は、16世紀にカナダのニューファンドランド島に入植した人々が飼育していたセント・ジョンズ・レトリバーだった(セント・ジョンズ・レトリバーの祖先犬ははっきりしないが、イングランド、アイルランド、ポルトガルなどで飼育されていた使役犬の雑種犬と推定されている)。セント・ジョンズ・レトリバーは、忠誠心と作業を好む性質を持ち、漁に用いられ、漁船同士の間に漁網を渡す、漁網の牽引、水中にこぼれ落ちたニシンなどを回収させるなどの様々な用途に使役されていた。
     1820年頃に、ニューファンドランド島からイングランドのドーセット州に多くのセント・ジョンズ・レトリバーが持ち込まれ、水鳥猟に適合した狩猟犬として能力が高く評価された。1880年代にマルムズベリー伯家から贈られてバクルー公家の繁殖計画に使われたバクルー・エイヴォンとネッドという犬が、現在のラブラドール・レトリバーの直接の祖先であると考えられている。
    二種類の血統:使役犬や狩猟犬としての能力を重視したアメリカンタイプとドッグショーなどの品評会用に外観を重視したイングリッシュタイプの二種類の異なる血統がある。また、アジアではオーストリアンタイプと呼ばれる系統も存在しており、アジアでの主流である。
    性質/習性/資質:温和、社交的、従順である。好奇心旺盛で冒険的で社交的な犬種である。ボール投げやフリスビーキャッチなどの遊びや競技を好み、敏捷で恐れを知らない性格である(興奮しやすく落ち着きがないという誤った評価をされることもあるので訓練と躾が必要)。嗅覚が鋭く、嗅跡をたどって追跡を続ける忍耐力に優れている(軍用犬・警察犬に使役)。物をくわえることが本能的に好きであり、卵を割らずにくわえて運ぶことができる(水鳥などの獲物を傷つけずに回収する狩猟犬に使役)。非常に落ち着いた性格を持ち、乳幼児や他の動物に対しても友好的である(優れた家庭犬)。無駄吠えが少なく、縄張り意識も見られない。見知らぬ人間に対して鷹揚で友好的な性格である(番犬には不向き)。食欲旺盛(見境なく食べる)であり過食・誤食による肥満や病気に注意が必要である。人の後をついてまわったり目新しい臭いを追跡する習性があるので、飼い主の前から突然姿を消したり、人を警戒しないので盗まれることもある(マイクロチップ埋め込みが適)。
     労働意欲が高く知的な犬種であり、狩猟犬、災害救助犬、水難救助犬、探知犬、身体障害者補助犬、アシスタントドッグなどの役割で使役されている。
     泳ぎが得意で、凍てつく水温下でも長時間泳ぎ続け、嗅覚で水に落ちた獲物の水鳥までたどり着いて咥えて運んでくる(鳥猟犬-水鳥回収の王)。
    毛色の変遷:ブラック(濃淡のない一色)、イエロー(クリームからフォックスレッド)、チョコレート(ブラウンからダークブラウン)の三種類が公認されている。毛色は、三種類の遺伝子によって決定される(B遺伝子、E遺伝子、KB遺伝子)。シルバー(灰色)もあるが、シルバーを発色させる遺伝子は存在しないので、この血統は疑問視されている。
    健康・肥満:寿命は10年から13年で、頑健な犬種である。適切な食餌で飼育されしまった体躯のラブラドール・レトリバーは、無計画な食餌で飼育された犬よりも約2年程度長生きするようだ。
     肥満を防止するための運動量は、毎日2回、少なくとも1回30分程度の散歩が必要であるとされている。
    世界的な普及:2006年時点で、世界で最も飼育頭数が多い犬種である。イギリスとアメリカでは、飼育頭数2位の犬種の2倍以上である。身体障害者補助犬としての登録数は、アメリカやオーストラリアなど多くの国で1位である。

国名 2005年時点での人口(百万人) ラブラドール・レトリバーの登録頭数 人口百万人あたりの
登録頭数
フランス 60.5 9,281 153.4
フィンランド 5.2 2,236 426.0
スウェーデン 9.0 5,158 570.5
イギリス 59.7 18,554 311.0
アメリカ 307.0 10,833 36.3

 

 ラブラドール・レトリバーは、約140年間にわたって人が作り上げてきた犬種であり、人との良好な関係を築いてきた。身体障害者補助犬として最も適した犬種であろう。他の使役犬としても良き家庭犬としても、最も有用な犬種であり続けるであろう。


参考資料:

イヌ-Wikipedia

ラブラドール・レトリバー – Wikipedia

犬はどこから来たか(イヌの起源)

山賀 進:われわれはどこから来て、どこへ行こうとしているのか、そして、われわれは何者か-宇宙・地球・人類-第3部 生命第3章 人類の起源と進化(1)

ヒト – Wikipedia

朝日新聞DIGITAL:8千年以上、仲いいワン 最古の飼い犬の壁画、発見か:

犬の起源に関するわれわれの認識は間違っていたようだ :ギズモード

イヌの起源は中央アジアと 遺伝子調査 – BBCニュース BBC.com

イヌ家畜化の起源は中国、初の全ゲノム比較より – ナショナルジオグラフィック

Guagnina M, Perrib A R, Petragliaa M D.: Pre-Neolithic evidence for dog-assisted hunting strategies in Arabia.

(第18回・理事通信)



第17回「動物とともに生きる~ 災害時の備えについて改めて考える~」
 2017年10月11日 掲載

理事 入交眞巳
 日本ヒルズ・コルゲート(株)プロフェッショナル獣医学術部/どうぶつの総合病院 行動診療科

 ご縁があって、2014年から「災害動物医療研究会」の幹事をさせていただいています。
 もし災害が起きたとき、人の命を助けるのはもちろん最優先ですが、実は動物に関しても考えないと人を助けられない場合があります。例えば畜産農家の方で、動物を置いて人だけ完全に避難することができない場合もあります。いったん避難しても避難所から、危険な可能性がある避難地区へ家畜に餌をあげに毎日通ってみたり、一般の家庭でも犬や猫と一緒に逃げられないなら避難所には行かないと決心して、避難命令が出ているのに、犬や猫とうちに残ってみたり、ペットと車中泊を続けるようなことがあります。このような方のお気持ちは実際に動物の飼育者として痛いほどわかります。

 補助犬と生活を共にし、補助犬に日々支えられている障がい者の方々は、動物が一緒に避難できないのであれば、絶対に避難しないし避難できないとお考えになることが多いかと思います。避難所はもちろん基本的に補助犬を受け入れないということはないのですが、災害時に身体にご不自由のある方が発災時のパニック時に補助犬と一緒に避難するのは非常に大変でしょうし、みんなに余裕がない時ですのでなおさら困難な状況でしょう。

 災害医療研究会では、地域の獣医師会を中心に、人と動物に災害時に何ができるか、混乱しているときに物事をスムーズに進めるための指揮命令系統をどうするか、被災地の外にいる人たちが支援をする場合にどのような支援体制がいいか、受援体制に関しては何がいいかなど「VMAT」の立ち上げとともに勉強会を各地域で行っています。VMATとはVeterinary Medical Assistant Teamの略で、人のDMAT(Disaster Medical Assistant Team, 災害派遣医療チーム)の獣医医療版です。被災動物の救護、獣医療の提供を行うチームとなり、被災地域から派遣要請を受けてチームとして出動していきます。災害時の万が一の体制はちょっとずつ整いつつありますが、動物と暮らす私たち一人一人も万が一に備えた準備は大切だと考えさせられます。

 実は災害動物医療研究会の活動に参加するたびに、自分の状況に反省するばかりです。我が家には犬も猫もいますが、災害時の準備は全く完璧とは言えない状態です。人に至っても同じです。仕事に行っている間などに災害が起きる可能性もあるので万が一私が帰れない時でも犬猫を誰に託すか、家族でどう落ち合うかなど細かい約束事も考えないといけないなと思っています。補助犬と暮らす方も、万が一の場合どこに避難するか、無事な場合にどこに届けるべきか、などぜひ調べて万が一の時に備えていろいろ考え準備いただけるとよいかと思います。また、補助犬と一緒に暮らす方は当センターもですが、地元の自治体、地元の獣医師会にも万が一の時はどこに逃げるのか、どのような計画かお伝えいただくようなこともよいのかもしれません。

(第17回・理事通信)



第16回「障害者の就労支援の現場から」
 2017年8月22日 掲載

理事 釜井 利典 (社会福祉法人 北摂杉の子会 ジョブジョィントおおさか たかつきブランチ 就労支援員)

 普段、障害者の就労支援を行っている立場から、少しお話をさせていただきます。
 少子高齢化などにより労働人口の減少、大手企業への偏重など様々な要因により、労働力を確保できないと悩む企業がある一方で、ノーマライゼーションの意識の広まりもあり、障害者雇用を積極的に推進する企業もあります。
 今年の5月に厚生労働省から、民間企業に義務付けている障害者の法定雇用率を段階的に引き上げていくことが発表されました。障害者法定雇用率が来年の平成30年4月には2.2%に、そして平成33年3月末までには2.3%にまで引き上げられます。また対象障害者に、身体障害者と知的障害者に加え精神障害者も含めることになりました。
 そもそもこの障害者法定雇用率制度とは、障害者がごく普通に地域で暮らし、地域の一員として共に生活できる「共生社会」実現するために、障害者雇用を義務化して就労による障害者の自立を促すねらいがあります。よってすべての事業主には、法定雇用率以上の割合で障害者雇用を義務づけされたものです。
 

事業主区分

法定雇用率

現行

平成30年4月1日以降

一般の民間企業

2.0%

2.2%

国、地方公共団体等

2.3%

2.5%

都道府県等の教育委員会

2.2%

2.4%


 このことから、今まで従業員50人以上の事業主が対象になっておりましたが、45.5人以上の事業主が対象になります。

 厚生労働省が発表している平成28年障害者雇用状況を見ますと、

<民間企業>(法定雇用率2.0%)
 ○ 雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新。
  ・ 雇用障害者数は 47万4,374.0 人、対前年4.7%(21,240.5人)増加
  ・ 実雇用率1.92%、対前年比0.04ポイント上昇

 ○ 法定雇用率達成企業の割合は 48.8%(前年比1.6ポイント上昇)
 
 またハローワークを通じた障害者の就職件数は、平成27年度の90,191件から伸び、93,229件(対前年度比3.4%増)となりました。そして就職率も48.6%(同0.4ポイント上昇)と上昇しました。

 更に今年7月厚生労働省の審議会では、全国平均で25円の最低賃金の引き上げて時給848円をする目安が示されました。
 このように年々障害者の雇用は進んでおり、この度の障害者法定雇用率のアップや最低賃金のアップは、就職を目指している障害者の皆さんにとって良い事のように見えます。しかし企業側、事業主にとってはどうでしょう。雇用しなければならない、しかも最低賃金のアップによって、給与は他の従業員とのバランスを考えながらも見直さなければならない。体力のある大手企業は別として、中小企業にとっては大変な事です。その結果おのずと新たに雇用する方々や既に雇用している方々に対する職業能力の要求レベルが、上がってゆくのではないでしょうか?

 これらのニュースを聞いて、障害者の就労支援をしている私は、そう単純には喜べない、むしろ不安を感じてしまうのです。

 日頃から障害者を雇用されている、あるいは雇用を考えている企業の方とお話しさせていただく機会があり、様々な声を聞かせていただいています。

 「雇用したのは良いが、他の社員との給与面や処遇面のバランスで悩んでいる」「キャリアアップをどうしていったら良いのか分らない」「どこまで求めれば良いのか、関わり方に気を使ってしまう」といった既に障害者を雇用されている事業主の声。「雇用したいけど、会社としてどのような対応をしたら良いのか分らない」「我が社の求める人材と出会えない」「長く働いてくれるだろうか心配である」「他の社員と上手くやっていけるだろうか不安がある」
 
 雇用を考えておられる事業主からはそんな声が聞かれます。

 障害者の職場定着の取り組みは、職場や障害の種類によってそれぞれ違います。一律にこうすれば良いというものはありません。雇用前後はもとより1年2年と時を重ねる事で新たな課題が出てくる事も多いものです。ご本人の努力や考え方、気持ちの変化、結婚や親の死去など家庭環境の変化、企業を取り巻く社会経済の変化、経営状態や企業規模の変化など、それは障害者側にも企業側にも現れます。すなわち常に変化するものです。

 さて、障害者の法定雇用率がアップすることで、就職しやすくなる、就職するチャンスが増えると障害者にとって良い面である一方、就労支援者として危惧する事は、企業側はそれに向けた受け入れるためのハード面ソフト面の環境を整える事ができるだろうかという事です。互いの情報不足によるミスマッチが起こってしまい、定着に繋がらないこともあります。

 例えばこんな事例があります。


 知的障害を伴う発達障害の方です。一年毎に契約更新する契社員として働いておられました。ご本人は、頑張って働かないと契約更新してもらえないと思い、日々頑張って仕事をされていました。ところが半年ほど経ってから会社で問題行動が見られるようになりました。ご本人の意識はありません。それは日々エスカレートすることで、遂には契約更新されず解雇になってしまいました。ご本人はなぜだか分りません。「自分は一生懸命頑張ってきた。」とおっしゃいます。実は、「頑張らないといけない」という思いが強く、ご自身の本来持てる力が100とすると、120あるいは130の力を常に出し続けていたというとご理解いただけるでしょうか。そうすると会社では「そんなこともできるのならば、これもやってもらおう」と、会社側の要求レベルが自然と上がって来てしまいます。一方ご本人はしんどさを感じる事ができないタイプの方でした。常に「頑張らないといけない」という思いが頭の中でいっぱいです。更に140、150の力で頑張ります。そしてご本人も気付かない内に、問題行動、例えば独語が出たり高層ビルの中にあるオフィスだったのですが、エレベータに乗ると全ての階のボタンを押してしまうなど、いくつかの問題行動が発生するようになりました。雇用先から連絡を受けた我々は「何があったのだろう。あんなに頑張って仕事をしていたのに」と思いながら、会社の方、ご本人と何度かお話をするうちに、ご本人が持てる力以上に頑張り過ぎてしまったために起きたのだという結論に至り、定着支援の難しさを痛感するケースでした。


 
 企業の採用ニーズは高まり、売り手市場になりつつある障害者雇用。今一度、採用に向けての取り組みを見直してみることや、支援者側も、多面的に企業と障害者を見る(アセスメント)することが必要ではないでしょうか。特にこれから新規に雇用を考えてくださる企業に対しては、十分なサポートを提供できる支援員の質が問われると思います。
 よって障害者の法定雇用率がアップするということは、既に雇用されている企業の抱える悩みに共に考え支える一方で、これから雇用を考えている企業に対して寄り添い共に着実に進めて行くことが、支援に求められているという事を考える今日この頃なのです。

(第16回・理事通信)



第15回「理学・作業療法における動物の可能性~自立手段としての動物の介在~」
 2017年6月21日 掲載

当会理事 野口 裕美 (四条畷学園大学 リハビリテーション学部 作業療法学専攻・教授)

私の学問へのきっかけ
 動物が好きで、子どもの頃から、家には犬や猫、ニワトリなどさまざまな動物がいました。当時の夢は動物のお医者さんか、日夜一つのことを研究し続ける学者になることでした。大学では、医療分野で活躍できる理学療法を学びました。
 理学療法士としての道を歩み始めましたが、心の片隅にはいつも「動物のお医者さん」への思いが消えませんでした。卒業から8年後、母校の大学で「動物介在療法を研究している作業療法学科の教授がいる」と聞いて、再び母校の門をたたき、作業療法を学ぶことになりました。これがきっかけとなり、動物介在療法や介助犬に関わることになりました。

進路を悩んでいる学生さんへメッセージ
 犬や猫の動物が「人の健康」に良い影響を与えることが報告されています。「動物介在療法」は、動物を介在させて治療する療法のことであり、介助犬は障がい者にとって生きた自助具としての役割を担っています。理学療法や作業療法の手段として動物が医療中で効果を発揮していることをぜひ、知ってほしいと思います。
 動物に興味がある人もヒトに興味がある人も、是非、この両方にかけ橋を持つこの分野で何ができるのかを一緒に考えていきませんか? どんな分野に進もうかな?と迷っている学生さんは多いと思いますが、進んでいけば最後はどこかにちゃんと行きつきます。思いや夢を是非、楽しんで下さい。


ヒトと動物の関係 ちょっと知っておいて下さい! ~ 知識編 ~ 

< 医療現場での人と動物の関わり >
 障がいのある人が、杖や車いす、補聴器などの器具を使って体の機能を補うことは一般的に行われています。そんな補助の1つに、動物を介した方法があります。視覚障がい者には「盲導犬」、肢体不自由者には「介助犬」、聴覚障がい者には「聴導犬」といった手段があります。これらの犬たちは「身体障害者補助犬」と言われています。一方で、医療現場では治療として動物を介入させる方法も行われています。「動物介在療法」と言います。
 医療現場で動物を介入させていく際には一般的なリハビリテーションの流れと同様に医師、リハビリテーション専門職である理学療法士や作業療法士、犬のトレーナや動物のボランティアなどで編成されたチームでの取り組みが重要になります。

< 介助犬の効果 >
 例えば、体の片側が麻痺した人が歩くときには、片側に寄ってしまうなど、歩行パターンに支障が出ます。これを補うために、通常は杖や歩行器など自助具と呼ばれる福祉機器を利用してバランスを取ります。こうした自助具の代わりに、介助犬を利用する方法では、訓練を繰り返す中で犬が利用者の微妙なニュアンスを覚えて、絶妙なところで推進力やブレーキを与え、スムーズな歩行を実現させてくれます。ロボットも進化していますが、介助犬にはロボットや器具では成し得ないことを実現できる可能性があり「生きた自助具」とも言われています。医療現場では介助犬の効果によって、障がいのある人が「次なる一歩」を踏み出すことが期待されています。

< 作業療法士の引き出しに介助犬という選択肢を >
 医療現場で活躍する1人でも多くの作業療法士が、介助犬は杖や歩行器などと同様に、自助具の1つであり、人を身体的に介助できるということを知ることが重要です。そして、リハビリの中で「介助犬という選択肢」があることを当事者に伝えられるようになることが期待されています。
 そのためには、生きた自助具として「犬はどんなことができ、どんな特性があるのか?」「ロボットとの違いは何か?」などの比較研究も必要です。また、犬は生き物なので関係性を築く時間が必要であり、すぐ思ったように動いてくれるわけではありません。しかし、利用者からは「介助犬が行った動作は自分が行っているように感じる」という声も聞かれます。このような介助犬が人に与える効果を科学的に証明しようと、現在では三次元動作分析装置を使用した身体的な効果や、インタビューなどを通じた精神的な効果の研究が進められています。

 (第15回・理事通信)



第14回「補助犬法のお誕生日は?」
 2017年5月17日 掲載

当会専務理事 兼 事務局長 橋爪 智子

 さて、補助犬法のお誕生日ってご存知ですか?
 今から15年前の2002年5月22日、国会議事堂にて、満場一致で成立したこの身体障害者補助犬法、本当に多くの当事者の悲願の法律でもありました。


 補助犬法ができるまで、盲導犬という言葉はあっても、「アクセス権」はなかったんです・・・
 2002年5月22日に補助犬法が成立するまで、法律に単語として存在したのは、「盲導犬」だけでした。しかも、道路交通法。そこにはこう記されています。

<1978年(昭和53年)道路交通法>
 第十四条 目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ。)は、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。

 ようは、道路交通上、安全のために白杖をついて歩くか、盲導犬を連れて歩きなさいということ。その中で、公共交通機関の同伴利用も、施設・店舗等の同伴利用も、全く保障されたものではありませんでした。
 では、その当時の盲導犬ユーザーさん達は、どのように社会参加していたか???
 結局は、社会の好意により、たまたま受入れてもらっていた状況だったのです。ということは、受入れ社会も訓練関係者も、相当な努力と話し合いにより、そして何よりも当事者であるユーザーさん達の努力と働きかけの上での社会参加でした。本当にそれはそれは、計り知れない苦労があったと思います。
 そんな苦労話を、最近のベテランユーザーさん達は、笑顔で語ってくださいます。「昔は、こんなだったよ・・・」と。そして、「今は補助犬法ができたことで、法律の後ろ盾ができ、こんなに心強いことはない・・・」とも話してくださいます。

 補助犬ユーザーをサポートする立場の人間として、その言葉はとてもうれしいとともに、だからこそ『身体障害者補助犬法』自体を、もっともっと日本全国の方々に広げて伝え、真の理解の上の実効性を持たせられるよう、さらにさらに頑張らないと! と心新たにする思いです。

 そんな、関係者の想いが集結するのが、年に2回、5/22の補助犬成立記念日と、10/1の補助犬法施行記念日です。全国各地でイベント等行われると思いますので、皆さん是非とも足を運んでいただき、補助犬について知り、そして補助犬ユーザーさん達の想いに触れてみてください。きっと、新たな気付きを得て、皆さんの翌日からの世界が大きく変わりますよ♪

 毎年5月22日には、当会が事務局を務めます『身体障害者補助犬を推進する議員の会』がシンポジウムを開催いたします。今年は平日の月曜日ではありますが、是非ともご都合調整の上、ご参加くださいませ。全国から補助犬ユーザーさん達もお集まりになられます。今年は『障害理解の最前線』をともに学びます。皆さんの生活の中でも、職場でも、様々な場面で行かせるエッセンスがたくさん得られると思います♪ (第14回・理事通信)

補助犬イベントのお知らせ

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身体障害者補助犬法成立15周年記念【ほじょ犬の日】啓発シンポジウム2017
  テーマ:障害者理解の最前線 ~障害の社会モデルを知る~
  開催日:2017年5月22日(月)
  会 場:衆議院議員第一会館・国際会議室
  備 考:参加無料・手話通訳あり・要約筆記あり

第1部 10時30分~12時00分
 基調講演&ワークショップ(仮)
 星加良司(東京大学大学院教育学研究科付属バリアフリー教育開発研究センター・専任講師)

第2部 13時30分~15時00分
「補助犬同伴の社会参加について~相互理解の観点から~」(仮)
パネルディスカッション

※第176回「ほじょ犬」ってなぁに?けあサポブログ より



第13回「補助犬と啓発活動」
 2017年2月20日 掲載

当会副理事長 木村佳友(日本介助犬使用者の会・会長、関西学院大学・非常勤講師)

 私たち補助犬関係者の努力が足りないのかもしれませんが、身体障害者補助犬法(以後、補助犬法)の認知度は、法律の成立から15年が経った今も低いままです。
 盲導犬を知らない人はいませんが、介助犬や聴導犬を知っている人は30%程度、補助犬法の名称も内容も知っている人となると数%という調査結果もあります。
 そのため、障害者が補助犬同伴で初めての施設を利用する際には、高い確率で補助犬法の説明や交渉が必要になります。同伴を拒否されても「法律で、補助犬の受入が義務化されていること」を説明して受け入れられれば良いのですが、いくら説明しても同伴を拒否されることもあります。これでは、障害者が補助犬との外出を躊躇しかねず、障害者の社会参加を支援するはずの補助犬が、社会参加を妨げる原因となってしまいます。

「ようこそ補助犬」シール 同伴拒否を解消するため、厚生労働省や補助犬関連団体などでは、ウェブサイトでの広報だけでなく、啓発イベントの開催、啓発用リーフレット・シールの作成・配付を行なっており、政府インターネットテレビには、啓発ビデオの動画も公開されています。当会でも、情報提供や相談対応のほか、啓発セミナーの開催、啓発用DVD・シールの配布を行っていますが、普及啓発の難しさを実感しています。

※毎日新聞大阪社会事業団・シンシア基金の助成で制作した「補助犬シール」や24時間テレビチャリティー委員会で制作した「補助犬啓発DVD・クイズブック」は、当会の【ウェブサイト】から請求できますので、是非ご活用ください。DVDの動画を視聴することもできます。



小学校での講演

小学校での講演

 私自身も、補助犬の普及・啓発のために講演活動を行っています。介助犬との生活を始めてから21年になり、講演やシンポジウムなどで介助犬の話しをした回数は約630回、聴講して下さった方の延べ人数は10万人を超えました。
 私の講演対象の内訳を下表に示しましたが、学校での講演、企業や団体の職員研修、一般の講演会など、広い世代の方に聴講して頂いています。
 補助犬の同伴拒否をなくすためには、すべての世代の皆さんに補助犬法を正しく理解していただく必要がありますが、今回は学校での講演についてお話ししたいと思います。

 学校では、道徳や総合的な学習の授業で、講演を依頼されることが多いです。
 小学校ではあまり難しい話はできないのですが、後日送って下さる感想文には、

  • 車いすの生活の大変さが分かった。
  • 介助犬が、体の不自由な人の役に立っていることがよく分かった。
  • 障害のある人が困っているところを見かけたら、声をかけてお手伝いしたい。
  • 介助犬が楽しんで仕事をしていることがわかった。
  • 介助犬を勝手に触っていけないことがわかった。
  • シンシアの本を、図書館で借りて来た。
  • お父さんやお母さんに教えてあげた。

などと書かれていて、小学生なりにきちんと理解してくれています。

 ある時、JRの窓口で新幹線のチケットを購入する際に、次のようなことがありました。
 普段は、介助犬のことを伝えても、事務的に対応される方がほとんどなのですが、その方は笑顔でとても優しい対応でした。話しを聞くと、小学生の時に、私とシンシアの講演を聞いてくれており、私が「大人になって、働いているお店に介助犬を連れた方が来られたときには、同伴拒否などせずに、優しく受け入れてくださいね」と言ったのを憶えてくれていたそうです。
 レストランや病院などでも同じような経験をしましたし、新聞やテレビの取材でお会いした記者さんやアナウンサーさんから「子どもの頃にシンシアちゃんの講演を聞きました。ずっと介助犬の取材をしたいと思っていました」と言われたこともあります。
 子どもの頃に、補助犬について学んだり、補助犬と触れ合った経験のある人は、相手の気持ちを優しく受け入れる姿勢が自然に身につくように思います。

 子どもの頃に学ぶべきことは、補助犬だけでなく他にもたくさんありますが、補助犬は子どもたちが関心を持ちやすく、福祉や障害者の理解にもつながると思います。
 身体障害者補助犬を推進する議員の会や文部科学省には、学校での障害者への理解を深める「心のバリアフリー」を充実させるなかで、学習指導要項へ補助犬に関する内容を盛り込むことをお願いしています。 (第13回・理事通信)

表.講演対象の内訳 ※1996年~2017年01月
講演対象 小学校 中学校 高等学校 大学
専門学校
企業等の
研修など
百貨店等
での
イベント
一般講演
福祉フェア
その他
合計
回数 92回 26回 38回 49回 43回 23回 362回 633回
延べ人数
(概算)
30,700
12,600
10,300
6,900
5,200
3,200
36,300
105,300


第12回「補助犬ユーザーのフィットネス向上と大切な補助犬への動物リハビリテーション」
 2017年1月24日 掲載

当会理事長 佐鹿 博信 (横浜市立大学医学部 名誉教授)

 フィットネスとは、人が中等度レベル以上の身体活動を著しい疲労がなく遂行できる能力のことです。中等度レベルの身体活動とは、座位中心の仕事だが、職場内での歩行移動、立位での作業や接客など、あるいは通勤・買物・家事の活動、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合を示します。一方、低いレベルの身体活動とは、車椅子の障害者など、生活の大部分が座位で静的な活動である場合です。反対に高いレベルの身体活動とは、歩行移動や立位の多い仕事、あるいは、スポーツなどの活発な運動を行っている場合を示します。

 スポーツなどの身体運動は、身体に好ましい影響をもたらし、生活の質(QOL)を向上させることがよく知られています。運動が身体に好ましい影響をもたらす機序として、フィットネスが向上し、活動した骨格筋からマイオカイン(Myokine;IL-6など)という生理活性物質が分泌されることが関与しています。Myokine(IL-6)は抗炎症作用を有しており、脂肪の分解やインスリン抵抗性の抑制や免疫機能の強化などにより生活習慣病を改善するという働きをしています。

 フィットネスの構成因子として、循環呼吸器系フィットネス、体組成、筋力と筋持久力、柔軟性などがあります。障害者のリハビリテーションは生活機能の改善を目指しますが、そのためにはフィットネスの獲得とその向上が課題になります。フィットネスの中でも、特に、有酸素運動を行う事により、循環呼吸器系フィットネスが増強されます。これは、動作の安定感の維持や転倒防止、体幹や関節の柔軟性維持につながり、さらに、体脂肪の減少、肥満の予防、耐糖能の改善・インスリン抵抗性の改善・血圧の低下・HDL-コレステロール増加などの糖脂質代謝の改善などをもたらします。そして、QOLの改善と免疫機能の強化にもなります。

 しかし、障害のある人は、障害者スポーツに取り組まない限り、中等度レベル以下の身体活動で毎日を過ごしていることになります。特に、車椅子を使用して日常生活や社会参加をしている障害者は低いレベルの身体活動で毎日を過ごさざるを得ません。スポーツ活動を全く行っていない車椅子の脊髄損傷者(両下肢麻痺)の最大酸素摂取量(運動耐久性の指標)は、21.8±5.5(ml/kg/分)であり、30歳代の健常者の約50%のレベルにすぎず、障害のない70歳代女性と同等のレベルです。脊髄損傷者では、両上肢に十分な強度の運動(最大酸素摂取量の60%の強度で20分間)を行うと両上肢筋からMyokineが分泌されますが、頚髄損傷者(四肢麻痺)では、Myokineが分泌されません。

 「生活機能(QOL)の改善のみならず生命の見通し(予後)の延長」を達成するためには、運動の強度・時間と内容が適切でなければなりません。米国心臓病協会による脳梗塞の再発予防のためのガイドラインは「中等度の運動を毎日少なくとも30分間」を推奨しています。また、1日当たり300kcalのエネルギー消費の運動習慣が大切であり、これは1日当たり1万歩の歩行運動に相当します。

 残念ながら、犬については、生活機能の維持向上を達成するための運動の強度・時間が分かっていません。それでも、犬のフィットネスや犬の福祉としてドッグランや動物リハビリテーションが推奨されています。

 補助犬を使用して社会参加を達成している障害者が、フィットネスを達成し、生活機能と生命予後を向上させていくためには、生活や社会参加活動の中で、毎日約300kcalの身体運動がなされるのが理想的です。Myokineが分泌されるほどの運動強度の骨格筋活動がなされるような日常の生活活動が大切です。しかし、そのような都合の良い生活活動は実際には存在しないと考えた方が良いでしょう。補助犬もその使用者のペースで活動しますから、犬としての福祉に達していないレベルの運動強度で毎日を過ごしていることになります。つまり、補助犬の使用者と補助犬には、フィットネスの維持向上のために、特別な運動メニューが必要です。補助犬使用者は障害者スポーツ、補助犬はドッグランや動物リハビリテーションなどのメニューが必要と考えます。特に、補助犬に対しては、ドッグランなどの動物リハビリテーション施設の整備と費用負担に対する公的支援が必要だと考えます。 (第12回・理事通信)



第11回「飼い主としての補助犬使用者」
 2016年12月29日 掲載

当会副理事長 山﨑 恵子 (ペット研究会「互」主宰、IAHAIO 理事、白書作成委員 他)

 補助犬の使用者は同時に犬の飼養者であることは言うまでもないが、この点がしばしば見過ごされているのではないかと考えることがある。そのようなことを言うと「補助犬はペットではない」、と叱られてしまいそうであるが、実はペットではないという点が極めて重要なことである。補助犬はペットよりもはるかに重要な任務を背負っているわけであり、当然のことながら一般のペット以上の「メンテナンス」が必要であろう。(ペットを軽視しているわけではないし、彼等にも重要な役割があることは承知している。)最近の愛犬事情を見ると、飼い主たちの知識の幅はめまぐるしいほどに進化している。手作り食やナチュラル・フード、ホメオパシー、アロマ、フラワーレメディ等々を含むホリスティック・ケア、年々進化し続ける様々な犬具、行動学の最新情報に基づいた様々なトレーニング方法、言い始めればきりがないほどに愛犬のケアは今や、一大産業ともなっているのである。そしてその中で飼い主たちには、実にいろいろな選択肢が与えられ始めているのである。しかしそのような情報は、飼い主が求めなければ手に入ることはない。多くの愛犬家はより良いものを求めて常にアンテナを張り巡らせている。

 ここで補助犬の位置づけを考えてみると、どうであろうか?残念ながら、トップを走る一般の飼い主たちと比べれば、まだまだ情報が補助犬の世界では行き渡っていないように感じるのは私だけであろうか。確かに補助犬の育成には必ず障がいのある使用者に関する的確な情報を把握し、それを考慮しながら作業が行われなければならない。一昔前はこの点がないがしろにされ、犬のトレーニングが主軸におかれていたようである。しかし、今や振り子が反対に振り切られているのではなかろうか。大切な作業をしている犬であるからこそ、ペット以上の最新情報に基づいたケアが必要なのである。ドッグスポーツが盛んになってきたことから、今やスポーツドッグ専門の獣医学もあり、後肢などのアンギュレーションの測定等から適性や限界を見ることもできるようである。薬膳による体質改善も動物の世界に広がっている。獣医療の中にも理学療法の専門資格ができ、多くの専門家が育っている。また飼い主が自ら学び、愛犬のボディーバランスの調整に応用できることで世界中に広がりを見せてきた『Tタッチ』も、今や我が国にも定着し、何名もの免許皆伝者が全国に存在する。補助犬には欠かせない服に関しても、素材や構造が犬のストレスを和らげるようなものも開発されており、一般の飼い主たちの中にはこれらを犬に安心をもたらすための「道具」として活用している人々も決して少なくない。

 このようにめまぐるしい発展を遂げている愛犬ケアの世界に関する情報を、もっと補助犬使用者に知っていただく必要がある。むろん使用者の中にはこのような情報に精通している方々もおられることは事実である。しかし一般のペットとは違う、という位置づけを主張するにはペットの飼い主よりも自らのパートナーのメンテナンスに、より一層時間とお金をかけることが当たり前であるということを基本としなければならない。このような点をぜひ今後様々な関係者にお考えいただきたいものである。 (第11回・理事通信)



第10回「人と犬が自然体で共に暮らす社会」
 2016年11月16日 掲載

当会理事 山口 千津子 ((公社)日本動物福祉協会 特別顧問)

 日本では、最近猫ブームとかで、マスコミも出版界もこぞって猫を取り上げ、猫を使ったコマーシャルがあちらこちらで目に付くようになりました。

 なんでもブームに仕立て上げるのが日本人の特色の様で、今までからもいろいろな犬種の流行が作り上げられ、その毎に急激にその犬種が繁殖されることで無理な繁殖を強いられた雌犬達は、5~6歳ですでにボロボロです。虚弱・遺伝性疾患・先天異常等の子犬も多く生み出されました。ブームに群がる消費者も見かけがその犬種であれば50万円でも100万円でもお金を出します。「共に暮らす命」というよりも「動くおもちゃ」や「ブランドバッグ」のように扱い、極小の犬たちを宝石店のようにガラスケースに入れて展示するペットショップまで出現しています。残念ながら、日本には健全な繁殖のための具体的な法規制はありません。確かに、昔のように番犬として庭で飼育する飼い主よりも、室内飼育する飼い主が増え、家族という認識が広がってはいますが、中には極端に擬人化し、犬としての生理・生態・習性等に配慮するよりも、「かわいがる対象」として愛情をかける人もいます。

 一方、私がRSPCA(英国王立動物虐待防止協会)でインスペクターのトレーニングを受けていた英国では、人と動物の付き合い方は、とても自然体です。デパートのペットグッズ売り場には、日本と同じようにかわいらしい犬の服が売られていますが、実際に公園で飼い主と散歩を楽しんでいる犬たちを見ますと、服を着ている犬たちよりも泥だらけになって飼い主と共に遊んでいる犬たちの方が目に止まります。もちろん、人社会で犬と共に暮らすためのしつけやルール(子供広場は犬禁止や糞の放置禁止、決められたところ以外ではノーリード禁止、等)はありますが、バスには子供料金で乗車できますし、パブで飲んでいる飼い主の足元では犬がくつろいでいます。英国の人々にとって、犬は、「かわいがる対象」というよりは、同じ社会で暮らす「犬」という仲間・家族としてしっかり英国社会に根を下ろし、市民権を得たごく自然にそばにいる存在なのです。

hojoken-blog20160721 犬は人間ではなく、「犬」という種であり、動物福祉の世界基準である「5つの自由」(①飢えと渇きからの自由、②不快からの自由、③痛み・怪我・病気からの自由、④恐怖や抑圧からの自由、⑤正常な行動をする自由)に基づいた犬のニーズを満たし、できる限りストレスのない生活を保障することが、人と犬の自然な付き合いを生むのではないかと思っています。

 その「自然な付き合い」方を、人同士の間でも感じたことがありました。私が信号待ちをしていますと横に目の不自由な方が立たれ、ごく自然に、「一緒に信号を渡っていただけますか」と言われたのです。私も自然に行動しました。

 手助けが必要な人に手を差し伸べることもですが、障害のある方もない方も、手助けが必要な時には遠慮することなく素直にお願いでき、それを自然に受け止めることができる社会。それが、ぬくもりのある、命にやさしい社会であり、私たちが目指すべき社会ではないでしょうか。 (第10回・理事通信)



第9回「障害者の就労支援の現場から」
 2016年10月19日 掲載

当会理事 釜井利典
社会福祉法人 北摂杉の子会 ジョブジョイントおおさか たかつきブランチ 就労支援員

会議中も聴導犬は大人しく待機=爆睡中

会議中も聴導犬は大人しく待機=爆睡中

誰もが住み良い社会を目指しています。障害のある方もそうでない方も共生できるノーマライゼーションの社会、すなわち障害のあるなしに関わらず誰でもが過ごしやすい社会を目指して、皆が考え取り組まなければなりません。障害のあるお子さんを持つ親御さんは、自分がいなくなったらこの子はどうなるのだろうと、言いようのない不安にさいなまれている方がたくさんいらっしゃいます。障害者にとって就労は自立に向けてとても重要なものです。
就労を望む障害者の基本的なニーズとして多いのが、「企業側に障害を理解してもらい、安心して長期間安定的に働きたい」というものです。そしてこれは私のような就労支援員の願いでもあるのです。ハローワークに行けば障害者向けの求人票は一般求人よりは少ないものの多くあります。条件を高くしなければ就職することは可能です。しかし大事なことは、就職することがゴールではないということです。継続就労すなわちそこで働き続けることが大事なのです。

では長く働き続けるために何が必要になってくるかと言えば、それはご本人の「努力」ではありません。無論努力も必要ですが、雇用する企業や地域、社会が取り組まなければならないことがあります。
平成25年改正障害者雇用促進法では、事業主に対し障害者に対する「合理的配慮」の提供義務が規定され、平成27年3月には、合理的配慮指針が策定されました。
特定の個性や心身の症状を持っている人が、適切な配慮を受けることができれば、それぞれが持てる力をより活かし、日常生活はもとより社会生活を営むことができます。ただしそれは画一的なものではなく、一人ひとり障害の状態や職場の状況に応じて提供されるものであり、個々に調整が必要になります。ですので、合理的配慮を否定したり拒否することは、「差別」ともいえます。

合理的配慮を受けることができる対象者は、障害者手帳の有無には関係ありません。
「障害者差別解消法」には、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害(以下「障害」を総称する。)がある者であって、障害および社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。(同法 第一章 第二条)」と規定されています。すなわち個人と社会の相互作用によって「障害」は発生するので、社会制度や環境までもが工夫の対象となります。

合理的配慮のポイントは、その人その人ひとり一人に適した配慮です。但し過剰な配慮は、その方の持てる力を発揮する場や機会を失わせることになるため合理的とは言えません。必要かつ適切な配慮が必要となります。そのためには、ご本人がどのような場面で何に困っているのか、どのような配慮を必要としているのか把握することが必要です。
障害もいろいろあり、視覚や聴覚の障害、肢体不自由、知的や精神障害、発達障害、内部障害や難病による障害なども、障害特性や各個人のニーズもそれぞれ違います。こうすれば良いと画一的な物ではないのですが、少し具体例をご紹介します。

就労においては、障害特性によって通勤時間を考慮する必要があります。通勤ラッシュを避けるために出退勤の時間調整をしたり、休暇も通院に配慮することも必要です。また職場では動線を考慮し座席の配置を考慮することや通路には物を置かない、ケーブルはすべて天井から下すなどの物理的環境の整備も必要でしょう。またご本人の習熟度に応じた仕事量や難易度の調整、図や写真などを活用した業務マニュアルや手順書の整備、その日の業務内容や目標、スケジュールなどを明確にすることも合理的配慮になります。
ただし合理的配慮は、障害者を既に雇用している企業やこれから新たに障害者を雇用しようと考えている企業に取っては、ハードルの高いものに感じるでしょう。何だか難しそうだなぁと採用を躊躇される可能性があります。

そこで重要な役割を担うのが、職場適応援助者(ジョブコーチ)です。障害者が職場に適応できるよう、障害者自身に対する支援に加え、事業主や職場の従業員に対しても、障害者の職場適応に必要な助言を行い、必要に応じて職務の再設計や職場環境の改善を提案し定着に向けて支援してゆきます。
ちなみにジョブコーチは、地域障害者職業センターや障害者の就労支援を行う社会福祉法人、あるいは障害者を雇用する企業にもおられます。
それぞれ雇用障害者数は年々増加していますが、まだまだ少ないのが現状です。社会に対し障害に関する知識の普及や継続的な支援を行うことが、ノーマライゼーション実現のために重要なことと思います。障害のあるなしに関わらず誰もが過ごしやすい社会を目指して、私も就労支援員としてジョブコーチとして障害者に寄り添い歩んでゆこうと思っています。 (第9回・理事通信)

◆平成27年の障害者雇用状況(厚生労働省)
民間企業に雇用されている
障害者の数
453,133.5人
身体障害者 320,752.5人
知的障害者 97,744.0人
精神障害者 34,637.0人
◆民間企業の雇用状況
法定雇用率 2.0%
実雇用率 1.88%
法定雇用率
達成企業割合
47.2%

 



第8回「リハビリテーション関連職種の理解・協力を求む!!」
 2016年9月23日 掲載

当会理事 野口 裕美
四條畷学園大学 リハビリテーション学部 作業療法学専攻 講師 理学療法士/作業療法士

sd_touch 今回、理事通信の原稿依頼のお話を頂き、原稿の依頼があってから投稿まで何をお伝えしようかな・・・という点も含め、少々、色々な事を考えさせて頂きました。そこでは私が補助犬事業に関わってからを振り帰る良い機会となりましたので、私見も含めて(私見が大半で)、私が介助犬の存在を知った15年前の状況と現状、抱える課題に関して、医療従事者として、当団体の役員として、取り組むべき課題について書かせて頂く事に致しました。

 あっという間の15年でしたが、冷静に考えると決して短い時間ではありません。それでは現状、補助犬を取り巻く社会の環境がどれだけ変化したのだろうか?そして自分自身がこの事業に対してどれだけ貢献することができ、社会に対して有益な情報をどれだけ提供することができたのだろか?その様な問いかけは尽きることがありません。

 私は、15年前に日本全薬工業㈱(ゼノアック)が助成する理学療法士、作業療法士を対象にした「介助犬トレーナー研修生」に応募し、参加をしたのが介助犬に関する最初の大きな関わりでした。その時の報告はゼノアックのHPに掲載されていますので、是非、ご参考にして下さい。

※ゼノアック・スカラーシップ、スカラーによる研修生の報告
 http://www.zenoaq.jp/csr/support2.html

 研修後には、「理学療法士として、客観的なデータに基づく、介助犬の身体介助機能面に関する研究を積み重ね、介助犬による身体介助効果について明らかにしてゆきたい」という掲げた目標に邁進して参りました。
 その後、大学院において作業療法士の恩師より多大なる影響を受け、機能面における研究のみならず、介助犬と生活することによってもたらされるライフスタイルや自己効力感の変化に興味を持ち、作業療法を学ぶ機会を得て、現在は作業療法学的な分野で研究活動を進めております。
 一人でも多くの理学療法士、作業療法士に介助犬の存在を知ってもらい、一般的な装具と同様に介助犬に関しても知識を蓄えて頂きたい思いで、個人的には地道に、啓発活動、研究活動、様々な活動を続けて参りました。
 しかし、ふと立ち止まってみると医療従事者の介助犬に対する認識がまだまだ低く、そして、受け入れに関しても医療機関で同伴拒否に会うケースが未だ多いのが現状です。そして、特にこの分野に関して興味を持って、共に関与する医療従事者を育成できていない現状に気が付かされます。
 今後、自立の手段として介助犬との生活が適応となる障碍者に対して、日々の臨床現場の中で情報提供し、一人でも多くの障碍者が介助犬の効果を最大限に引き出しながら、充実した生活が送れるように様な環境を作りだすためには、引き続き、そして、益々、理学療法士、作業療法士に対して介助犬の存在、効果について、情報提供する必要性を感じております。
 そして、特に、次世代に向けて、この補助犬事業の一部を支えてもらうためにも、若い世代のセラピストが補助犬に興味を持ち、効果について共に考えてもらえるような体制を整えていくことが必須であると感じております。この体制構築が私にとっては、当面、一番の課題であると考えています。
 当センターとしてもリハビリテーション専門職を対象に介助犬の情報提供するセミナーなどを計画するなど、具体的に事業を展開して参りたいと思います。

 是非、少しでもご興味、関心を持たれたリハビリテーション専門職の方々、当センターまで、ご連絡下さい。リハビリテーション専門職としてできることを色々な側面から一緒に検討していきませんか。ご連絡をお待ちしております。 (第8回・理事通信)



第7回「建設的対話こそ共生社会を開くカギ ~障害者差別解消法施行を受けて~」
 2016年7月19日 掲載

当会専務理事 兼 事務局長 橋爪 智子

 2002年に身体障害者補助犬法が施行され、15年目の2016年4月、障害者差別解消法が施行されました。
 障害者白書によると、日本には、身体障害者393.7万人、知的障害者74.1万人、精神障害者320.1万人、合計787.9万人。総人口1億2千万人の約6%、およそ16~17人に1人が何らかの障害がある方、ということになります。

 世界的に見ると「One In Ten」という言葉が在ります。10人に1人と言われています。そんな社会に私達は住んでいるのですが、残念ながら、日本という国は、物理的なバリア「ハード」面ではとても進んでおり、評価されていますが、心のバリア「ソフト」面は、まだまだなのが現状です。個人的には、日本特有の『奥ゆかしさ』や、『隠匿の美』的な感覚が、ブレーキをかけてきたのではないかな~と感じています。

補助犬3種

補助犬3種

 そんな中、ようやくわが国も障害者権利条約に批准し、障害者差別解消法を施行することで、インクルーシブ社会先進国のスタート地点に立てました。いよいよ、これからが本番です。2020年東京オリンピックパラリンピック開催は、障害者理解を深める、千載一遇のチャンスだと感じていますので、社会全体でこの機運を盛り上げて行ければ!と思っています。そのためにも、私達 補助犬関係者は、『補助犬』の普及啓発を切口として、障害のある方々の事を社会に対して広く発信し、真のインクルーシブ社会実現のため、更に力を合わせていかなければならないと感じています。その取り組みをするためにも、障害者差別解消法の正しい理解が必要です。
 しっかりと学び、正しい啓発に繋げたいと思っています。

障害者差別解消法と「基本方針」のポイント♪

1.みんな違ってみんないい!
 法の目的は「障害を理由とする差別の解消を推進することによって、(中略)全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」(1条)とされています。 この、『相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会』これこそまさに、補助犬法の精神と同じだと感じます♪

2.障害を理由とする不当な差別的取り扱いの禁止
 行政機関や民間事業者(事業者、病院、学校、PTA、町内会etc…)に対し、「障害を理由として障害者でない者と不当な差別取扱いをすること」を禁止(7条1項、8条1項)
 つまり、どんな場面でも、ということがわかると思います。ちなみに、『補助犬の同伴拒否』はこの「障害を理由とする不当な差別的取り扱い」に当たります。

3.合理的配慮の提供
 行政機関や民間事業者は、障害者からの申出があった場合、過重な負担とならない限り、当該障害者に対し合理的配慮を行わなければならないと定められた(7条2項、8条2項)

 「基本方針」には合理的配慮の例として次のようなものがあげられています。

  • 車椅子利用者のために段差に携帯スロープを渡す、高い所に陳列された商品を取って渡すなどの物理的環境への配慮
  • 筆談、読み上げ、手話などによるコミュニケーション、分かり易い表現を使って説明をするなどの意思疎通への配慮
  • 障害の特性に応じた休憩時間の調整などのルール・慣行の柔軟な変更

となっています。

 残念ながら、この合理的配慮には、「わかりやすい正解」はありません。なぜなら、1人1人が必要としている配慮は、それぞれ違うからです。ですので、最も大切なことは、「何かお手伝いしましょうか?」の一言がかけられるかどうか?なのです。

 ぜひ、皆さん、障害のある方々に出会えたら、そして、その方が困っている様子だったら、是非「何かお手伝いしましょうか?」の一言を♪そして、提示されたサポートを、無理の無い範囲でお願い致します。決して「特にお願いしたいことはありません」と言われても、ガッカリしないで下さいね♪必ず、また、チャンスはありますので♪ (第17回・理事通信)



第6回「身体障害者補助犬啓発の課題~特効薬はあるのだろうか・・・?」
 2016年6月22日 掲載

当会理事 吉田 文(大阪保健医療大学 作業療法学専攻 教授 (作業療法士))

 2015年度にサービスグラントからのご紹介でSMFGプロボノプロジェクトの協力を得て、補助犬受け入れ実態の把握および阻害要因の調査を行った。今回の結果を2005年に行った調査結果と比較してみると、調査人数はほぼ同じ、各補助犬の実働頭数は微増しているが、残念ながら補助犬の受け入れは進んでいないという結果である(詳細は当会・ウェブサイトからダウンロードできる資料をご参照願いたい)。

表1.身体障害者補助犬の実働頭数           
 ※盲導犬:社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会調べ
 ※介助犬・聴導犬:厚生労働省調べ          
調査年 盲導犬 介助犬 聴導犬
2005年03月末 957頭 28頭 10頭
2010年03月末 1070頭 46頭 19頭
2015年03月末 984頭 76頭 61頭



 身体障害者補助犬法ができて14年。当会も今後の啓発活動をどのように展開していけばよいのか、再検討する必要がある。この現状を打開する特効薬はあるのだろうか?

講義後

講義後

 先日、当会理事の木村に私が勤務する大学での講義をお願いした。テーマは「介助犬と作業療法」である。介助犬使用者である木村は現在の介助犬デイジーで3頭目。介助犬使用者の立場から作業療法士になるための勉強をしている学生に向け、自身の障害について、介助犬との生活の実際と有効性、補助犬受け入れの現状等についての講義を行った。リハビリテーション専門職を目指す学生たちに補助犬の講義をすることは、学生にとってはリハビリテーションツールの一つとしての補助犬を学習し、障害のある方の自立と社会参加を支援する知識・技術の幅を広げるという側面がある。もう一方で、学生たちが将来勤務する医療施設での補助犬の受け入れを促進するための啓発活動として捉えることができる。

 直接補助犬使用者の話を聞き、補助犬を目にすることで解ける誤解はたくさんある。世の中には当然犬が苦手という方がたくさんおられる。学生の中にも苦手である・アレルギーがあるという人が数名いた。難しいのは、苦手な学生への強制にならないようにいかに学習の場を共にするかということである。あくまでも学習してほしいのは客観的な補助犬の知識であり、その知識は障害のある方の権利の保障につながるということを学生が理解することである。主観的な気持ちは学生自身が決めることであり、変化を期待するところではなかった。苦手な場合やアレルギーがある場合、どのように対処したら良いか学生全員に説明し理解することを求めた。結果としては何事もなく講義が終了した。それどころか、苦手だと言っていた学生の一人は「犬の印象が変わった、デイジーなら大丈夫」と言って、犬をなでられるほどになった。

 木村からの介助犬育成にはリハビリテーション専門職の協力が必要なこと、将来の就職先で補助犬の受け入れに積極的に協力してほしいこと、そのためにこの授業を役立ててほしいというメッセージと介助犬デイジーの実際の様子が学生の気持ちに影響を与えたのだろうと考える。この変化は補助犬使用者の利益になるだけでなく、犬をなでられるようになった学生の利益にもつながる。きっとこの学生は今後街で補助犬使用者に出会ったときに不快な感情や活動の制限を感じることなく補助犬使用者と場を共にできるはずである。もともと障害のある方への支援を仕事にしたいと志している学生なので全ての犬が苦手な方に当てはまるとは言えないが、今後の啓発活動のヒントがここにあると感じた(この講義については毎日新聞のウェブサイト「支局長からの手紙」に紹介されている)。

 犬が苦手な方や興味がない方にも情報を届ける工夫をすること、将来の社会を構成する若い世代にも積極的に情報提供すること、できるだけ多くの方に補助犬使用者と補助犬との活動を直接見聞きしてもらうこと、そして犬の問題ではなく障害のある方の社会参加の権利の問題であるという理解を求める活動を地道に、他団体・他領域の方々と協力して活動範囲を広げながら続けていくことが必要であると考える。
 身体障害者補助犬法ができてもう14年と思っていたが、補助犬が当たり前の社会になるにはまだ14年なのかもしれない。当会の存在意義がなくなる日が来るまで粘り強く活動を続けられるように計画していきたい。 (第6回・理事通信)



第5回「熊本地震によせて・・・動物行動学の観点から」
 2016年5月19日 掲載

当会理事 入交 眞巳
日本獣医生命科学大学 獣医学部獣医学科 臨床獣医学部門 治療学分野Ⅰ 講師(米国獣医行動学Ph.D)

 熊本地震があった日から1か月以上がたちました。被害にあわれた方に改めてお見舞い申し上げます。

 地震の後遺症で困っているワンちゃんや猫ちゃんに何ができるか、今からワンちゃんや猫ちゃんに何ができるかのお話です。

<地震の災害警報や携帯の警報を聞くと怖がる子に対して>

レオンベッド 警報が鳴ってから必ず揺れが来るような環境にいると動物も警報が鳴ると揺れが来るのではないか、と学習し、警報音で不安が増すような事態になります。警報音は怖いものではない、と教えるために警報が鳴ったらワンちゃん、ネコちゃんに大好きなおやつやフードをあげるようにしてみてください。おやつの大きさは小指の爪の半分くらいの大きさで十分です。小さいおやつをいくつもあげて気持ちを落ち着かせてあげましょう。
 もしも、普通は食べるのに警報の後はおやつやフードを食べない場合、これは不安が強すぎて食べられない、という意味です。無理に口に入れようとすると人の手がかまれるかもしれませんので、無理強いはせず、リードが付いていたら気分転換に少し一緒に歩いたり、他の部屋に逃げさせてあげたりしてもいいでしょう。少し落ちついたらおやつを上げたらよいと思います。

<特定の場所や状況に対して怖がる場合>

 本震を経験したのが寝室だった猫さんがその寝室に入らなくなって困っているご相談を受けました。特定の場所に対して怖がっている場合、地震の後にその経験から学んでしまった「寝室にいると地震が来て怖い」という考えを「寝室にいても大丈夫」という考え方に変更させるために「拮抗条件づけ」という学習をさせます。
 夜だけ寝室に入って犬や猫を招くのではなく、日中も時間があるときに寝室に行ってあえてそこで大好物の食べ物を与えたり、寝室であえて思いっきり遊んであげましょう。また可能であれば、ご飯もその部屋でしばらくあげても良いかもしれません。
 どうしても上のようなテクニックがうまくいかない場合は、不安を下げるサプリメントやお薬がありますので獣医さんにご相談ください。

<これからしたいこと>

 徐々に落ち着いてきましたら、万が一に備えていきましょう。
 災害時はどうしても色々なことが起きますので、どんなに気を付けていてもワンちゃんや猫ちゃんがはぐれてどこかに行ってしまったり、パニックしていきなり逃げ出したりします。落ちついてからそっと物陰から出てきて近所の方が保護するようなことになるかもしれません。災害時に捕獲された動物が誰の子か速やかにわかるようにワンちゃん猫ちゃんにはマイクロチップを装着し、登録をしておきましょう。また、狂犬病済票を首輪につけておくとこれも所有者明示の意味があるものになりますので、つけておける子はつけておくようにしましょう。また首輪などに消えないマジックなどでご家族の名前と電話番号を入れると、だれでもすぐに誰の子かわかるのでお家に帰りやすくなるかもしれません。災害時に迷子にさせないようにしっかり予防しておきましょう。

くるみキャリー また、避難所ではケージに入れられることが多くなります。ケージに入れないと避難所自体にも入れなかったりしますので、何もないときからは「ハウス」と言うとケージやキャリーに自らいけるような練習をしておきましょう。方法は簡単で、「ハウス」と言っては好物の食べ物をケージかキャリーにほおり込むだけです。大好きなものを食べるために喜んでハウスやキャリーに自ら入れるようになります。繰り返すうちに「ハウス」と言うだけでハウスに入ってワクワクとおやつを待つまでになるでしょう。こうなるとハウスに入ること自体にストレスは感じなくなります。


 そろそろ動物たちも落ち着きを取り戻しながらも色々な他の問題も出てきている可能性があります。体調を崩してしまうのは動物も同じです。
 どんなことでも何か心配なことがありましたら是非近隣の獣医さんにご相談ください。 (第5回・理事通信)

<熊本県獣医師会の被災動物支援専用の電話窓口>
 http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_15527.html



第4回「介助犬と身体障害者補助犬法」
 2016年4月16日 掲載

当会理事 木村佳友(日本介助犬使用者の会・会長、関西学院大学・非常勤講師)

レストランで

レストランで

 介助犬との生活は、今年で20年になります。初代のシンシア、2頭目のエルモを経て、現在は3頭目のデイジーと生活しています。
 私は27歳の時、通勤途上の交通事故で頸髄を損傷し車いすの生活になりました。結婚して1年余りの頃です。人生を諦めかけた時期もありましたが、リハビリ訓練を経て在宅勤務で職場復帰も果たしました。しかし、妻との二人暮らしで妻もフルタイムで勤務しており、日中は一人になるため、落したものが拾えず仕事が中断する、車いすから転倒しても助けを呼べないなど、問題がありました。ちょうどその頃、日本で育成が始まったばかりの介助犬の記事をきっかけに、介助犬との生活を始めることになりました。

 前年(1995年)に国産第1号の介助犬が誕生したばかりで、シンシアは日本で3頭目の介助犬でした。盲導犬と異なり、数頭しかいない介助犬は存在すら知られておらずペット扱いされ、同伴拒否の連続で、交渉しても受け入れてくれる施設はほんの一握りで、交通機関も利用できない状況でした。地道に交渉を続けることで、理解を示してくれる施設もあらわれました。また、事前の手続きや乗車試験が必要でしたが、一部の交通機関にも乗車できるようになりました。
 しかし、このような状況では、個別の交渉をいつまでも続けなければならず、使用者にとって、物理的にも精神的にも大きな負担でした。家では、生活をサポートしてくれる大切なパートナーですが、車いすで外出するだけでも大変なのに、介助犬を同伴することで、さらに外出のバリアが増えてしまいました。このままでは、今後の使用者も私と同じ苦労をすることになり、障がい者が「介助犬との生活」を諦めてしまいます。
 講演やマスコミ取材などを通じて、介助犬の受け入れを求める活動を続けていましたが、1999年には、シンシアと一緒に国会を訪れ、勉強会を開き介助犬の公的認知を訴えました。数か月後、勉強会に参加した国会議員が中心となって、「介助犬を推進する議員の会(注1)」が発足、国会においても介助犬の公的認知に向けた検討が始まります。国内外の現状、海外の法整備などを調査しながら、介助犬法の成立を目指しました。
 しかし、歴史ある盲導犬ですら施設への同伴を認める法律はなく、同伴拒否が絶えない状況で、盲導犬と、さらに聴導犬も加えた法案を作成することになり、盲導犬・介助犬・聴導犬の3種を総称する「身体障害者補助犬(補助犬)」を新たに定義し、法案が議員立法で国会へ提出されました。
 そして、2002年05月に、衆参の厚生労働委員会・本会議のすべてで、全会一致で可決され、補助犬使用者にとって悲願の法律「身体障害者補助犬法(補助犬法)」が成立したのです。
 公共施設、公共交通機関だけでなく、レストランやホテル、病院などの民間の施設においても、補助犬の受入が義務付けられました。受入を義務化するにあたっては、補助犬および使用者の能力を審査する認定制度も設けられました。さらに、訓練事業者は、新たに設けられた訓練基準・認定基準に沿った育成が義務付けられ、使用者にも補助犬の健康・行動を適正に管理することが義務付けられました。
 補助犬法の成立・施行の際には、テレビ・新聞でも大きく報道され、補助犬の認知度も上がり、同伴拒否も減りました。時間の経過とともに、補助犬法が広く認知され同伴拒否は少なくなっていくものと思っていましたが、法成立から14年が経った今も、同伴拒否は無くなっていません。
 2005年と2015年に実施した同伴拒否に関するアンケートでは、「同伴拒否を経験した使用者」の割合が、59.1%から66.0%へ増加しています。これと呼応するように、関西福祉科学大学の松中久美子准教授らの「身体障害者補助犬法の認知度調査(表1)」でも、「補助犬法の名称も内容も知らない」という人の割合が、2004年の55.3%から2011年の64.0%へ増加し、認知度が下がっています。
 最近では、同伴拒否などの事件が発生した時に、テレビや新聞で広く報道されることがありますが、一般的に補助犬に関する報道が少なくなったことも大きな原因だと思われます。さらには、企業内での補助犬法の周知徹底が、補助犬法成立時に比べるとおろそかになっていることも影響していると思います。
 「身体障害者補助犬を推進する議員の会」主催のシンポジウムを始めとする啓発イベントや講演会の実施、補助犬の啓発リーフレットやDVDの作成・配布はずっと継続しており、一部の教科書では補助犬法が紹介されるようになったにもかかわらず、認知度が下がっているのは非常に残念です。
 4月1日には、障害者差別解消法が施行されましたが、補助犬法とともに、国民に周知理解が広がり、障がい者や補助犬が自由に社会参加できることを期待しています。 (第4回・理事通信)

注1)「介助犬を推進する議員の会」の名称は、身体障害者補助犬法案が提出される際に、「身体障害者補助犬を推進する議員の会」へ変更された。

 

表1.身体障害者補助犬法の認知度調査
調査年
サンプル数
名称も内容も
知っている
名称のみ
知っている
名称も内容も
知らない
2004年
n=800人
6.1% 38.6% 55.3%
2011年
n=3000人
7% 29% 64%

※引用文献
・松中久美子・甲田菜穂子 2008 一般成人の身体障害者補助犬法の周知と補助犬の受け入れ-補助犬関連知識の効果- 社会福祉学, 49, 53-59.
・松中久美子・甲田菜穂子 2012 一般成人の身体障害者補助犬法の周知と補助犬の受け入れ-補助犬法改正後の共存意識について- 日本心理学会 第76回大会発表論文集



第3回「私感:差別と自立生活と社会参加、そして、権利とユニバーサルデザイン社会」
 2016年3月16日 掲載

当会副理事長 佐鹿 博信 (横浜市立大学医学部 リハビリテーション科 客員教授)

私は1976年にリハビリテーション科医師(2003年にリハ科専門医登録)になりました。約40年間で障がい者への差別、社会参加、権利(人権)をめぐってゆっくりだが大きな変化がありました。

1980年代の初頭は、リハ医学では「医学モデル」が主流であり、日常生活動作の自立や職業的自立を重視する自立観でした。青い芝の会(脳性麻痺者)による鋭い「生存権要求」「障がい者への反差別」などの闘争がありました。1979年の全員就学(養護学校義務化)や1981年の国際障害者年(完全参加と平等)など、障がい児教育や障がい者への社会的施策が大きく進みました。

1960年代の初めにカリフォルニア大学バークレー校から始まった自立生活運動(MIL)は、1972年に自立生活センター(CIL)へと発展し、ILの自立生活モデルは医学モデルを凌駕していきました。自立とは自己決定権の行使(自分の生活を自分で選び自分で決める)であるというMILは、1970年代後半に日本に紹介され、1991年には全国自立生活センター協議会(JIL)が発足しました。2015年では全国125団体がJILに加盟しています。

CILでは、障がい者自身が自らの自立生活のためのサービスを選択し運営(自己決定)する権利を有し、その計画の立案から運営までの過程に専門家と対等に参画する行為を自立として捉えてCILの運営の中核を障がい者が担っています(当事者参加)。自立体験をもつ障がい者は自立生活の実践的専門家であり、自立を求める障がい者の自立生活を側面から支援するピア・カウンセラーです(専門家と対等)。障がい者の自立(社会参加)を妨げるような障壁(差別的な社会構造や環境)を改革するために、他の社会的に阻害された人々(マイノリティー)と連携します。

国連は「障害者の権利に関する条約」を2006年12月に採択し、2007年に日本は署名しました。これを受けた「障害者差別解消法」はようやく2013年5月に成立し、2015年12月に同条約を批准し、2016年4月に同法は施行されます。長年、差別により苦しんできた障がい者はようやく完全参加と平等への法的基盤を獲得したことになります。

さて、補助犬使用者には、補助犬同伴拒否という差別の現状があり、自立生活、社会参加、権利などが十分に満たされているのでしょうか。

まず、同伴拒否の前に、補助犬を希望する障がい者はこれにアクセスする権利を阻害されています。介助犬と聴導犬の訓練事業者と認定法人は、北海道・東北・北陸・中国地方、および東京都と沖縄県には存在していません。盲導犬では全国で11法人に過ぎません。合同訓練は介助犬40日以上。盲導犬10日以上、盲導犬(共同訓練)4週以上を課せられています。例えば、青森県に居住する聴覚障がい者は、聴導犬のために関東や長野県などに出向かなければなりません。これでは「聴導犬をあきらめなさい」と言われていると同等です。多くの障がい者にとって、このようなアクセス権への侵害すら解消されないで障がい者補助犬法施行後14年が経過してしまいました。所轄官庁(厚労省と国家公安委員会)のみならず訓練事業者と補助犬使用者は猛烈に反省しなければなりません。アクセス権の解消へ向けた強力な施策を要求し、訓練事業者と補助犬使用者は連携して運動を進める事が必要です。

「当事者参加」ですが、補助犬の認定審査会や訓練事業者などに補助犬当事者が参加していません。つまり、専門家と対等の実践的専門家(ピア・カウンセラー)としてこれらの機関から認知されていないと言えます。そうすると、訓練事業者を介したピアカウンセリングも有効に機能していない可能性があり、補助犬希望者は「公正」なピアカウンセラーへのアクセスを阻害されていると推察されます。さらに、当事者参加によりはじめて良質な補助犬の育成、公正な認定、および啓発普及が実現していくと思います。加えて、「人に迷惑を及ぼさないこと」などの拒否や社会的障壁に直結する酷い表現も改善されると思います。

訓練事業者と認定施設が同じという極めて「非公正」な状態が解消されていません。医学教育分野では、医学教育の質向上と「公正」な臨床実習資格認定を目的として、2005年から医療系大学間共用試験実施評価機構が客観的臨床能力試験実施されています。補助犬の認定審査では、訓練事業所と認定施設を分離し、認定審査を実施する「認定審査機構」による客観的で公正な認定が行われることを期待します。

最後に、補助犬の所轄官庁は統合されるべきです、盲導犬は道路交通法規定されています。同法の目的は「交通安全に資すること」であり、視覚障がい者の社会参加や権利擁護に関する事柄はこの法の目的ではありません。したがって、盲導犬の所轄官庁は厚労省とするべきです。

このように考えてくると、補助犬に関する差別、社会参加、権利などが曖昧なままであり、このことが補助犬の普及を妨げているのかもしれません。このような現状であっても、補助犬使用にかかわらず、障がい者の社会参加を促し、支援し、受け容れる社会を創造していくことが重要です。つまり、ユニバーサルデザイン社会(UD社会)です。UD社会へ向けた運動の主体者は障がいの当事者であるべきです。補助犬使用の障がい者の連携が進み、補助犬訓練事業者の協同体(協議会)が形成され、補助犬情報センターがそれらの個人・団体・組織への連絡機能を持つことは重要です。 (第3回・理事通信)



第2回「IAHAIO(人と動物の関係に関する国際団体)白書」
 2016年2月16日 掲載

当会副理事長 山﨑 恵子 (ペット研究会「互」主宰、IAHAIO 理事、白書作成委員 他)

補助犬3種

補助犬3種

 IAHAIOは1990年に設立された「人と動物の関係に関する国際団体」です。3年に一度国際学会を開催し、動物介在療法、教育現場の動物、補助動物、社会問題等々に関する専門的発表の場を提供してきました。その中で最近問題とされ始めたのは、人間の医療・福祉・教育など様々な目的に活用されている『動物の福祉』です。人間の生活の質の向上に役立ってもらうのであればまずは動物自体の福祉が守られなければならない、という基本的な考えをより多くの関係者に持ってもらうという目的で活動動物の福祉基準を明確にするための専門委員会を設置し1年以上にわたり話し合いを繰り返し、最終的にはその結果を白書という形にまとめました。

 補助犬に関しては一部言及されている個所もありますが、基本は訪問活動などに参加したり、教育の現場で使用されたりする動物を対象に書かれた文章です。しかし同団体においては、いずれは補助犬に関する文章も作成しようという意欲はあり、将来的にはそのようなものも公表されるでしょう。動物の福祉は決して無視をするべき事柄ではありませんが、今回いわゆる動物愛護団体ではないところからこのような白書が出たということには大きな意味があると思います。今や動物を活用する人々対動物愛護団体という構図は時代遅れとなりつつあります。動物で何かをしようとする当事者間で福祉が語られる時代の到来ともいえましょう。我が国の団体もその流れに遅れをとらぬよう精進していかなければなりません。 (第2回・理事通信)

参照)IAHAIOウェブサイト→ International Association of Human-Animal Interaction Organizations

 



第1回「動物福祉の現状」
 2016年1月4日 掲載

当会理事 山口 千津子 ((公社)日本動物福祉協会 特別顧問)

補助犬3種

補助犬3種

平成24年に「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)が改正され、わが国でも動物の健康や安全、適正な取り扱い等飼い主責任の強化や、動物の虐待・遺棄の防止、罰則の強化等、「動物福祉」と「人と動物の共生」のさらなる推進が謳われました。ペット動物であれ、補助犬等の使役動物であれ、すべての飼い主(所有者・占有者)はこの法律を遵守しなければなりません。

この法律名にもありますように、日本では「動物」という言葉の後には「愛護」と続くことが多いのですが、「愛して護る」その愛し方は百人百様ですので、「かわいい」とか「かわいそう」という感情の下、「気まぐれな愛」や「間違った愛し方」の中で動物が苦しんでいることもあります。

一方、「動物福祉」はそのような感情に左右されるものではなく、その動物が、今、何を必要としているかを見極め、その必要としているもの「ニーズ」(肉体的・精神的・環境的・行動的・社会的ニーズ)を満たすよう行動することであり、福祉が確保された状態とは、一言でいえば「精神的にも肉体的にも健康であり、環境と調和・適応していてハッピーである」状態を言います。その基本に据えられているのが、「動物福祉」の国際的概念として認められている「5つの自由」(1.飢えと渇きからの自由、2.不快からの自由、3.肉体的苦痛・怪我・病気からの自由、4.恐怖や抑圧からの自由、5.正常な行動をする自由)です。改正動物愛護管理法にも言葉を変えて「5つの自由」の一部は法文に書き込まれています。この「動物福祉」は犬猫等の家庭動物のみならず、人の飼育下にあるすべての動物に当てはめられますので、補助犬も含め、人が飼育・利用しているすべての動物に対して、生まれてから死ぬまでその飼育方法・環境や輸送、扱い等、動物の「5つの自由・ニーズ」を確保する必要があります。「動物福祉」では人の為に動物を利用することは認めておりますが、必ず利用される動物の福祉が確保されていなければならず、人の福祉のためと言えども、使われる動物の福祉が優先されます。それを無視すれば、動物の酷使になり、動物虐待に繋がります。

また、今回の改正では、「殺処分0を目指す」ことや「譲渡・返還の推進」「終生飼養」や「緊急災害時の対応」等も盛り込まれましたが、「殺処分0」を絶対ととらえ、そのために、ただ「かわいそう」という感情だけでスペースも人手もお金も十分にない人に譲渡し、気が付いた時には劣悪多頭飼育の二次崩壊という事態もすでに起こっています。殺処分はしていなくても動物は病気でじわじわ死んで行きます。このままでは「殺処分0、でも、動物福祉も0」の国になってしまいます。

「終生飼養」についても、飼ってはいてもその飼養状況はどう見てもネグレクトということはそれほど珍しくありません。「生きている」か「死んでいる」かだけを問題にし、その生きる質については問いません。動物は苦痛を受けながら毎日を送らされているのです。それでも「終生飼養」なのです。「動物福祉」とはその「生きる質」を問うのです。

この現状を改善していくためには、法律を遵守し、官民が力を合わせて「動物福祉」を推進し、人と動物が共に幸せに暮らす社会の構築に努力する必要があると思います。 (第1回・理事通信)