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第15回「理学・作業療法における動物の可能性~自立手段としての動物の介在~」

理事 野口 裕美 (四条畷学園大学 リハビリテーション学部 作業療法学専攻・教授)

私の学問へのきっかけ
 動物が好きで、子どもの頃から、家には犬や猫、ニワトリなどさまざまな動物がいました。当時の夢は動物のお医者さんか、日夜一つのことを研究し続ける学者になることでした。大学では、医療分野で活躍できる理学療法を学びました。
 理学療法士としての道を歩み始めましたが、心の片隅にはいつも「動物のお医者さん」への思いが消えませんでした。卒業から8年後、母校の大学で「動物介在療法を研究している作業療法学科の教授がいる」と聞いて、再び母校の門をたたき、作業療法を学ぶことになりました。これがきっかけとなり、動物介在療法や介助犬に関わることになりました。

進路を悩んでいる学生さんへメッセージ
 犬や猫の動物が「人の健康」に良い影響を与えることが報告されています。「動物介在療法」は、動物を介在させて治療する療法のことであり、介助犬は障がい者にとって生きた自助具としての役割を担っています。理学療法や作業療法の手段として動物が医療中で効果を発揮していることをぜひ、知ってほしいと思います。
 動物に興味がある人もヒトに興味がある人も、是非、この両方にかけ橋を持つこの分野で何ができるのかを一緒に考えていきませんか? どんな分野に進もうかな?と迷っている学生さんは多いと思いますが、進んでいけば最後はどこかにちゃんと行きつきます。思いや夢を是非、楽しんで下さい。


ヒトと動物の関係 ちょっと知っておいて下さい! ~ 知識編 ~ 

< 医療現場での人と動物の関わり >
 障がいのある人が、杖や車いす、補聴器などの器具を使って体の機能を補うことは一般的に行われています。そんな補助の1つに、動物を介した方法があります。視覚障がい者には「盲導犬」、肢体不自由者には「介助犬」、聴覚障がい者には「聴導犬」といった手段があります。これらの犬たちは「身体障害者補助犬」と言われています。一方で、医療現場では治療として動物を介入させる方法も行われています。「動物介在療法」と言います。
 医療現場で動物を介入させていく際には一般的なリハビリテーションの流れと同様に医師、リハビリテーション専門職である理学療法士や作業療法士、犬のトレーナや動物のボランティアなどで編成されたチームでの取り組みが重要になります。

< 介助犬の効果 >
 例えば、体の片側が麻痺した人が歩くときには、片側に寄ってしまうなど、歩行パターンに支障が出ます。これを補うために、通常は杖や歩行器など自助具と呼ばれる福祉機器を利用してバランスを取ります。こうした自助具の代わりに、介助犬を利用する方法では、訓練を繰り返す中で犬が利用者の微妙なニュアンスを覚えて、絶妙なところで推進力やブレーキを与え、スムーズな歩行を実現させてくれます。ロボットも進化していますが、介助犬にはロボットや器具では成し得ないことを実現できる可能性があり「生きた自助具」とも言われています。医療現場では介助犬の効果によって、障がいのある人が「次なる一歩」を踏み出すことが期待されています。

< 作業療法士の引き出しに介助犬という選択肢を >
 医療現場で活躍する1人でも多くの作業療法士が、介助犬は杖や歩行器などと同様に、自助具の1つであり、人を身体的に介助できるということを知ることが重要です。そして、リハビリの中で「介助犬という選択肢」があることを当事者に伝えられるようになることが期待されています。
 そのためには、生きた自助具として「犬はどんなことができ、どんな特性があるのか?」「ロボットとの違いは何か?」などの比較研究も必要です。また、犬は生き物なので関係性を築く時間が必要であり、すぐ思ったように動いてくれるわけではありません。しかし、利用者からは「介助犬が行った動作は自分が行っているように感じる」という声も聞かれます。このような介助犬が人に与える効果を科学的に証明しようと、現在では三次元動作分析装置を使用した身体的な効果や、インタビューなどを通じた精神的な効果の研究が進められています。

 (第15回・理事通信)