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第1回「動物福祉の現状」

理事 山口 千津子 ((公社)日本動物福祉協会 特別顧問)

補助犬3種

補助犬3種

平成24年に「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)が改正され、わが国でも動物の健康や安全、適正な取り扱い等飼い主責任の強化や、動物の虐待・遺棄の防止、罰則の強化等、「動物福祉」と「人と動物の共生」のさらなる推進が謳われました。ペット動物であれ、補助犬等の使役動物であれ、すべての飼い主(所有者・占有者)はこの法律を遵守しなければなりません。

この法律名にもありますように、日本では「動物」という言葉の後には「愛護」と続くことが多いのですが、「愛して護る」その愛し方は百人百様ですので、「かわいい」とか「かわいそう」という感情の下、「気まぐれな愛」や「間違った愛し方」の中で動物が苦しんでいることもあります。

一方、「動物福祉」はそのような感情に左右されるものではなく、その動物が、今、何を必要としているかを見極め、その必要としているもの「ニーズ」(肉体的・精神的・環境的・行動的・社会的ニーズ)を満たすよう行動することであり、福祉が確保された状態とは、一言でいえば「精神的にも肉体的にも健康であり、環境と調和・適応していてハッピーである」状態を言います。その基本に据えられているのが、「動物福祉」の国際的概念として認められている「5つの自由」(1.飢えと渇きからの自由、2.不快からの自由、3.肉体的苦痛・怪我・病気からの自由、4.恐怖や抑圧からの自由、5.正常な行動をする自由)です。改正動物愛護管理法にも言葉を変えて「5つの自由」の一部は法文に書き込まれています。この「動物福祉」は犬猫等の家庭動物のみならず、人の飼育下にあるすべての動物に当てはめられますので、補助犬も含め、人が飼育・利用しているすべての動物に対して、生まれてから死ぬまでその飼育方法・環境や輸送、扱い等、動物の「5つの自由・ニーズ」を確保する必要があります。「動物福祉」では人の為に動物を利用することは認めておりますが、必ず利用される動物の福祉が確保されていなければならず、人の福祉のためと言えども、使われる動物の福祉が優先されます。それを無視すれば、動物の酷使になり、動物虐待に繋がります。

また、今回の改正では、「殺処分0を目指す」ことや「譲渡・返還の推進」「終生飼養」や「緊急災害時の対応」等も盛り込まれましたが、「殺処分0」を絶対ととらえ、そのために、ただ「かわいそう」という感情だけでスペースも人手もお金も十分にない人に譲渡し、気が付いた時には劣悪多頭飼育の二次崩壊という事態もすでに起こっています。殺処分はしていなくても動物は病気でじわじわ死んで行きます。このままでは「殺処分0、でも、動物福祉も0」の国になってしまいます。

「終生飼養」についても、飼ってはいてもその飼養状況はどう見てもネグレクトということはそれほど珍しくありません。「生きている」か「死んでいる」かだけを問題にし、その生きる質については問いません。動物は苦痛を受けながら毎日を送らされているのです。それでも「終生飼養」なのです。「動物福祉」とはその「生きる質」を問うのです。

この現状を改善していくためには、法律を遵守し、官民が力を合わせて「動物福祉」を推進し、人と動物が共に幸せに暮らす社会の構築に努力する必要があると思います。 (第1回・理事通信)