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第4回「介助犬と身体障害者補助犬法」

理事 木村佳友(日本介助犬使用者の会・会長、関西学院大学・非常勤講師)

レストランで

レストランで

 介助犬との生活は、今年で20年になります。初代のシンシア、2頭目のエルモを経て、現在は3頭目のデイジーと生活しています。
 私は27歳の時、通勤途上の交通事故で頸髄を損傷し車いすの生活になりました。結婚して1年余りの頃です。人生を諦めかけた時期もありましたが、リハビリ訓練を経て在宅勤務で職場復帰も果たしました。しかし、妻との二人暮らしで妻もフルタイムで勤務しており、日中は一人になるため、落したものが拾えず仕事が中断する、車いすから転倒しても助けを呼べないなど、問題がありました。ちょうどその頃、日本で育成が始まったばかりの介助犬の記事をきっかけに、介助犬との生活を始めることになりました。

 前年(1995年)に国産第1号の介助犬が誕生したばかりで、シンシアは日本で3頭目の介助犬でした。盲導犬と異なり、数頭しかいない介助犬は存在すら知られておらずペット扱いされ、同伴拒否の連続で、交渉しても受け入れてくれる施設はほんの一握りで、交通機関も利用できない状況でした。地道に交渉を続けることで、理解を示してくれる施設もあらわれました。また、事前の手続きや乗車試験が必要でしたが、一部の交通機関にも乗車できるようになりました。
 しかし、このような状況では、個別の交渉をいつまでも続けなければならず、使用者にとって、物理的にも精神的にも大きな負担でした。家では、生活をサポートしてくれる大切なパートナーですが、車いすで外出するだけでも大変なのに、介助犬を同伴することで、さらに外出のバリアが増えてしまいました。このままでは、今後の使用者も私と同じ苦労をすることになり、障がい者が「介助犬との生活」を諦めてしまいます。
 講演やマスコミ取材などを通じて、介助犬の受け入れを求める活動を続けていましたが、1999年には、シンシアと一緒に国会を訪れ、勉強会を開き介助犬の公的認知を訴えました。数か月後、勉強会に参加した国会議員が中心となって、「介助犬を推進する議員の会(注1)」が発足、国会においても介助犬の公的認知に向けた検討が始まります。国内外の現状、海外の法整備などを調査しながら、介助犬法の成立を目指しました。
 しかし、歴史ある盲導犬ですら施設への同伴を認める法律はなく、同伴拒否が絶えない状況で、盲導犬と、さらに聴導犬も加えた法案を作成することになり、盲導犬・介助犬・聴導犬の3種を総称する「身体障害者補助犬(補助犬)」を新たに定義し、法案が議員立法で国会へ提出されました。
 そして、2002年05月に、衆参の厚生労働委員会・本会議のすべてで、全会一致で可決され、補助犬使用者にとって悲願の法律「身体障害者補助犬法(補助犬法)」が成立したのです。
 公共施設、公共交通機関だけでなく、レストランやホテル、病院などの民間の施設においても、補助犬の受入が義務付けられました。受入を義務化するにあたっては、補助犬および使用者の能力を審査する認定制度も設けられました。さらに、訓練事業者は、新たに設けられた訓練基準・認定基準に沿った育成が義務付けられ、使用者にも補助犬の健康・行動を適正に管理することが義務付けられました。
 補助犬法の成立・施行の際には、テレビ・新聞でも大きく報道され、補助犬の認知度も上がり、同伴拒否も減りました。時間の経過とともに、補助犬法が広く認知され同伴拒否は少なくなっていくものと思っていましたが、法成立から14年が経った今も、同伴拒否は無くなっていません。
 2005年と2015年に実施した同伴拒否に関するアンケートでは、「同伴拒否を経験した使用者」の割合が、59.1%から66.0%へ増加しています。これと呼応するように、関西福祉科学大学の松中久美子准教授らの「身体障害者補助犬法の認知度調査(表1)」でも、「補助犬法の名称も内容も知らない」という人の割合が、2004年の55.3%から2011年の64.0%へ増加し、認知度が下がっています。
 最近では、同伴拒否などの事件が発生した時に、テレビや新聞で広く報道されることがありますが、一般的に補助犬に関する報道が少なくなったことも大きな原因だと思われます。さらには、企業内での補助犬法の周知徹底が、補助犬法成立時に比べるとおろそかになっていることも影響していると思います。
 「身体障害者補助犬を推進する議員の会」主催のシンポジウムを始めとする啓発イベントや講演会の実施、補助犬の啓発リーフレットやDVDの作成・配布はずっと継続しており、一部の教科書では補助犬法が紹介されるようになったにもかかわらず、認知度が下がっているのは非常に残念です。
 4月1日には、障害者差別解消法が施行されましたが、補助犬法とともに、国民に周知理解が広がり、障がい者や補助犬が自由に社会参加できることを期待しています。 (第4回・理事通信)

注1)「介助犬を推進する議員の会」の名称は、身体障害者補助犬法案が提出される際に、「身体障害者補助犬を推進する議員の会」へ変更された。

 

表1.身体障害者補助犬法の認知度調査
調査年
サンプル数
名称も内容も
知っている
名称のみ
知っている
名称も内容も
知らない
2004年
n=800人
6.1% 38.6% 55.3%
2011年
n=3000人
7% 29% 64%

※引用文献
・松中久美子・甲田菜穂子 2008 一般成人の身体障害者補助犬法の周知と補助犬の受け入れ-補助犬関連知識の効果- 社会福祉学, 49, 53-59.
・松中久美子・甲田菜穂子 2012 一般成人の身体障害者補助犬法の周知と補助犬の受け入れ-補助犬法改正後の共存意識について- 日本心理学会 第76回大会発表論文集